E767早期警戒管制機 中国の巡航ミサイルにも目を光らせる「空飛ぶ司令塔」 |
「自衛隊は、航空機および巡航ミサイルによる攻撃に対する防衛を含むが、これに限られない必要な行動をとる」
改定前の旧ガイドラインには「巡航ミサイル」という文言はなかった。今回のガイドライン改定の背景となった「安全保障環境の変化」を象徴するのが中国の巡航ミサイルといえる。
中国にとって巡航ミサイルは、米軍の展開を阻む接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略の「中核をなすもの」(海上自衛隊関係者)と位置付けられている。台湾や日本はおろか、米領グアム、オーストラリアのダーウィン、インド洋の英領ディエゴガルシアも射程に収めているとされ、米国防総省は5月8日に発表した年次報告書で、中国の巡航ミサイルと弾道ミサイルの能力向上に警鐘を鳴らした。
巡航ミサイルは低空飛行するため、水平線の向こう側の捕捉能力に欠ける地上レーダーでは早期発見が難しい。このため、巡航ミサイル防衛で中心的な役割を担うのが、航空自衛隊のE767早期警戒管制機だ。国会審議などでは「空中警戒管制機(AirborneWarningAndControlSystem)」の頭文字を取り、「AWACS(エーワックス)」と呼ばれることが多い。
敵の航空機や巡航ミサイルが日本の領空に近づいてくるのをいち早く察知する。高高度から約800キロの範囲を“視野”に収めることができ、約12時間の飛行で約7200キロを飛ぶ。
より小回りがきくE2C早期警戒機と役割分担して早期警戒に当たるが、E2Cにない「管制」の能力も備えている。E2CやOP3C画像情報収集機のデータを集約し、敵機を迎え撃つ戦闘機に敵の位置や進行方向を伝える中継局の役割も担う。E767が「空飛ぶ司令塔」呼ばれるのはこのためだ。
E767は世界中を見渡しても4機しか存在せず、自衛隊がその4機を保有している。米ボーイング社が民間旅客機B767をベースに開発し、前世代機E3の警戒管制システムを搭載するE767は、平成12年9月に空自が運用を始めたときは最新鋭機だった。
全長49メートル、全幅48メートルの大きな機体を生かし、多種多様な電子機器を積み込むことができる。韓国軍やオーストラリア軍も導入を検討したが、1機で約550億円するコストがネックとなり見送られた。米軍ですら保有していない。
貴重な4機は空自浜松基地(静岡県)の警戒航空隊第602飛行隊に配備されている。日本領空に接近した軍用機などに対し、空自機が平成26年度に緊急発進(スクランブル)した回数は冷戦時代の昭和59年度(944回)とほぼ同じ943回。E767はE2Cとともに外国軍機の“第一発見者”となるべく、再び騒がしくなった日本周辺の空に目を光らせている。(政治部 杉本康士)
・・・ 平成27年6月6日(土)、産経新聞 10時15分配信より