<TPP閣僚会合>鍵握るカナダ苦慮 酪農保護、難しい譲歩 |
【アトランタ横山三加子、清水憲司】環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉は30日(日本時間1日)、交渉参加12カ国による閣僚会合が始まった。各国の思惑が交錯する中、事態打開のカギを握るとみられるのはカナダと米国だ。大筋合意に向けた推進役となるかブレーキ役となるか、それぞれ選挙が迫る国内情勢に左右されそうだ。
カナダが日米と同様、大筋合意を急ぐのは、10月19日に総選挙を控えるためだ。資源価格の低迷で景気が後退する中、ハーパー首相の与党は選挙戦で劣勢だが、TPP交渉で合意できれば、政権の実績としてアピールできる。ハーパー氏は29日の選挙演説で、「(TPPへの参加が)雇用を創出する唯一の手段だ」と訴えた。
日米とカナダ、メキシコの4カ国の間で協議中の自動車の「原産地規則」と呼ばれるルールでは、日米が緩やかなルールを主張するのに対し、カナダとメキシコが反発する構図だったが、ここに来てカナダが柔軟姿勢を示したことで、メキシコとの隔たりも狭まり、決着の公算が大きくなっている。
一方、酪農大国ニュージーランド(NZ)が、日米やカナダなど消費国に大幅な輸入拡大を要求し、難航している乳製品の市場開放問題でも、カナダが事態打開のカギを握る。カナダがNZからの要求に応じれば、その分、NZから日米への市場開放圧力が弱まり、交渉に応じやすくなるとみられるからだ。
ただ、カナダは長年、酪農家の収入を安定させるために輸入を制限する「供給管理制度」を採用。輸入拡大はカナダにとって、制度を揺るがしかねない大問題になる。野党が「制度の堅持」を訴える中、TPP交渉の結果次第では、東部の酪農州の反発を招き、総選挙に影響する可能性もある。29日には首都オタワで、乳牛を連れた酪農家たちがTPP反対を訴えて練り歩いた。
◇米も議会承認欠かせず
米国は議長役として各国の利害調整の役割を期待されるが、NZからの輸入拡大要求には消極姿勢を示している。また、米通商代表部(USTR)のフロマン代表は30日、閣僚会合開幕に先立ち、バイオ医薬品のデータ保護期間をめぐりオーストラリアのロブ貿易相と個別に会談したが、物別れに終わった模様だ。米国が関わる分野の交渉が停滞し、大筋合意の障害になることを懸念する関係者もいる。
背景にあるのは、米議会の存在だ。TPP交渉が妥結しても、発効には米議会の承認が不可欠。議会内で賛否は拮抗(きっこう)しており、賛成票を積み上げなければならないUSTRは、議員の要求を無視できない。来年秋の大統領選に併せ、上院の3分の1、下院は全員が改選されるため、業界の支援がほしい議員は業界寄りの発言を繰り返している。
「議会の承認を得るには、我が国にとって最良の合意にする必要がある。(今回の合意を見送ってでも)良い合意を得るためには待つ価値がある」。米議会でのTPP推進の中心人物で、通商問題を所管する上院財政委員会のハッチ委員長は29日、こう発言し、USTRにプレッシャーをかけている。
【ことば】カナダの酪農政策
乳製品の生産量をあらかじめ決め、価格を安定させる「供給管理制度」を基盤にしている。過去、生産過剰で酪農家の経営が苦しくなった経験から考え出された制度で、供給量を一定にするため、高関税などで海外からの輸入を厳しく制限。国内生産量は連邦政府や州政府が決定し、各酪農家に生産量を割り当てるが、割り当てがないと生産できないため、新規参入を妨げる既得権でもある。酪農生産の約8割が東部のケベック州とオンタリオ州に集中し、特にケベック州は家族経営が多い。フランス系住民が多い同州では歴史的に独立運動がくすぶる。同制度を変更すれば、独立の機運を盛り上げかねず、国政上の重要課題になっている。 ・・・ 平成27年10月1日(木)、毎日新聞 21時52分配信より
私のコメント: 今環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が、進展していくと、カナダ農業における小麦の生産政策 及び、その輸出政策 また、酪農政策 等にも、更に、日本の農家においても、その視野を向けていく必要性が出てくる。