<TPP協定署名>焦点は国内手続き 日米は審議に暗雲も |
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加12カ国は4日、ニュージーランドのオークランドで協定文に署名した。これにより、関税引き下げやルールの統一化などの合意内容が確定し、今後は発効に向けた各国の国内手続きが焦点となる。ただ、米国では大統領選が本格化して審議の難航が必至の情勢。日本も甘利明前TPP担当相の辞任により、今後の国会審議は波乱含みだ。【松倉佑輔、横山三加子、ワシントン清水憲司】
「歴史的なTPP署名が行われ、日本はその創設メンバーとなった。交渉には遅れて参加したが、米国と共に議論をリードしルール作りにも積極的に参加することができた」。安倍晋三首相は4日、誇らしげにTPP合意で日本が果たした役割を強調した。
署名式には高鳥修一副内閣相が参加。12カ国による閣僚会合も開かれ、今後の新規加盟国の受け入れや事務局設置の取り扱いについて、首席交渉官で引き続き議論を続けていくことを確認した。
TPPは署名から2年以内に全12カ国が国内手続きを完了すれば、その60日後に発効する。2年後以降でも、12カ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める6カ国以上が手続きを終えれば、60日後に発効するが、その際は経済規模の大きい米国と日本の承認が不可欠となる。
しかし、米国は大統領選を控え、TPP法案の早期の審議入りは困難な見通しだ。共和党の上院トップ、マコネル院内総務は2日、「(11月の)大統領選前には審議は行わないというのが私のアドバイスだ」とけん制した。
TPP賛成派が多い共和党が審議入りを渋るのは、既に大統領選が本格化しているためだ。1日の中西部アイオワ州の党員集会で、共和、民主両党とも2位以内に入った候補者はいずれもTPP反対の立場。TPPに対する慎重論も根強い中、議会で審議を進めれば、大統領選や、同時に行われる上下両院選にマイナスに働きかねない。
このため、オバマ政権は選挙後に法案を提出し、来年1月の大統領の任期切れまでに承認を目指すシナリオが有力だが、TPPを政権の「遺産(レガシー)」にしたいオバマ氏は選挙前の承認を諦めていない。署名を受けて「われわれは年内にTPPを成し遂げる」とする声明を発表。政治情勢を慎重に見極めながら、法案提出のタイミングを探るとみられる。
日本は、3月にもTPP協定の承認案と、法改正が必要な11の法律を8法案にまとめて国会に提出する。輸入拡大で国産品の価格下落が予想される牛・豚肉の生産者の赤字を補てんするしくみの法制化や、小説などの著作権の保護期間を70年に延長するための著作権法の改正などを予定する。審議入りは4月の見通しで、国会では野党が合意内容などについて追及する姿勢をみせている。
政府の誤算は、交渉内容を熟知している甘利明前TPP担当相が金銭授受問題で辞任したことだ。野党は後任の石原伸晃氏への集中攻撃で失言などを引き出したい構えで、4日の衆院予算委員会でも厳しく追及する場面がみられた。政府・与党は「国会の承認ができるだけ早く得られるように努力する」(菅義偉官房長官)と今国会での承認を目指す方針は変えないが、与党内からも早くも石原氏の答弁内容を不安視する声が相次いでいる。
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TPPが発効すれば日本が輸入する多くの農産物の関税が撤廃・削減される。消費者には恩恵だが、地方を中心に農家の不安は大きく、政府は農業強化策の検討を急ぐ方針だ。
農林水産省は適切な対策を取れば、農林水産物の生産額は最大で2100億円減少するものの、生産量は維持できると試算。15年度補正予算で、農業の体質強化に充てる基金事業を新設した。さらに、人材力強化や生産資材の価格見直しなど12項目の対策について検討を継続。与党での議論と併せて、秋までに取りまとめる方針だ。
焦点となるのが輸出競争力の強化だ。15年の農林水産物の輸出額は7452億円で、政府目標を上回るペースで推移している。TPPが発効すれば、米国向けの牛肉やベトナム向けの水産物など、日本からの輸出増が見込める品目の関税も撤廃される。政府は20年までの輸出額1兆円を目指しており、「TPPはその後押しになる。これをきっかけに攻めの農業に転じるべきだ」(経済官庁幹部)との声が強い。
政府は、省庁横断の官民会議「輸出力強化ワーキンググループ」を設置し、2日に初会合を開いた。物流企業や商社なども交えて、農産物輸出のための具体的な課題や方策を検討する。今後は、販路開拓や供給体制の整備、物流の効率化などが議論される見通しだ。
JAグループも4日「輸出推進対策本部委員会」を新設し、組織を挙げての輸出拡大に乗り出す。全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長は同日の記者会見で「後ろ向きの姿勢ではいけない。前を向いて歩くという姿を我々としては発信していかないといけない」と強調した。 ・・・ 平成28年2月4日(木)、毎日新聞 20時35分配信より
私のコメント:TPPが発効すれば日本が輸入する多くの農産物の関税が撤廃・削減される。消費者には恩恵だが、地方を中心に農家の不安は大きいものがある。