荒れ始めた日本株市場、日銀ETF買いめぐり思惑交錯 |
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に次ぐ巨大な「機関投資家」になりつつある日銀の動向に、市場も大きな関心を寄せている。
<サプライズのETF買い>
市場に驚きが走った。5日の東京株式市場で、日銀が追加緩和決定後、初めてETFを購入したことが分かったからだ。規模は380億円と、前回10月17日の147億円の約2.5倍。日銀は年間3兆円に購入ペースを3倍に増やすことを決めており、規模の拡大自体は予想されていたものの、そのタイミングがサプライズとなった。
日銀のETF買いはもっぱら後場だとの見方が多い。その基準は前場の終値と市場では推測しているが、5日のTOPIX<.TOPX>終値は前日比0.31%のマイナス、日経平均<.N225>は前日比35円安と下げは小幅だった。一時はプラス圏に浮上していた。以前のような、TOPIXで前場1%以上の下落という規則性が最近は見られないとはいえ、「相場が底堅い印象だっただけに意外感があった」(国内証券)という。
当日の東証1部売買代金3兆5460億円と比べれば、380億円という規模はさほど大きくない。しかし、取引時間中にまとまって出てくる買いの額としては、マーケットに与えるインパクトは十分だ。年間3兆円購入するとすれば、年間営業日を250日として、1日当たり「必ず」120億円買う必要がある。さらに中央銀行が株式を購入するというアナウンスメント効果は小さくない。
「日銀の黒田東彦総裁が2%の物価目標達成に強い意志を示した。さらに昨日のETF買いは株価が下がれば買うということを強く印象付けた。その是非や規模の影響度合いはともかく、その強い意思と行動にマーケット参加者の多くは、日銀に逆らうのは得策ではないと感じ始めているようだ」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資情報部長、藤戸則弘氏は指摘する。
<年内に第2位の「大株主」に>
日銀は2012年12月からリスク資産のETFとJ─REIT(不動産投資信託)の購入を開始した。当時は白川方明総裁だったが、黒田総裁が就任した後も継続され、昨年4月の量的・質的緩和を経て購入枠は徐々に拡大。これまで購入したETFは3兆4338億円となっている。
日銀のバランスシート上の株式保有額も膨らんでいる。ETFは今年3月末時点の時価ベースで約3兆8500億円、2002年9月に導入を決めた銀行等保有株式の買い取り分が2兆3000億円弱(時価)残っており、合計は6兆1500億円。年内にも日本生命の株式保有額7兆6900億円(9月末時点)を超え、GPIF(6月末で21兆9700億円)に次ぐ、第2位の「大株主」になる見通しだ。
GPIFも先月末、基本ポートフォリオ運用指針の見直しを決定。国内株の比率は12%から25%に大幅に引き上げられた。日経平均の予想株価収益率(PER)は16倍、TOPIXは17倍に上昇している。割高感も漂う水準だが、日銀とGPIF、2つの巨大な購入機関の誕生は、日本株のバリュエーション水準を引き上げる可能性がある。
一方、こうした買いの「隙」を突いた仕掛け的な売りも出てきそうだ。「日銀のETF買いは前場に株価がマイナスなのを確認してから出るようだ。プラスであれば買いが出てこないとの判断から、仕掛け的な売りが出やすい」(外資系証券トレーダー)という。6日午後の日本株の急落はオプションの利益確定売りとの見方が出ているが、前場の株価がプラスだっただけに、日銀の裏をかいた仕掛け的な売りが出たのではないかとの観測も聞かれた。
<欠かせない損失補てんの仕組み>
ただ、中央銀行が株式を購入するというのは世界を見渡しても異例な政策だ。どの企業の株を買うかという判断を中央銀行が下すというリスクは、個別株ではなくTOPIX連動型のETFを買うことで回避しているとしても、通貨の番人である中央銀行がき損の恐れのあるリスク資産を大量に買うことは、通貨の価値に関わる。
さらに、もし株価が大幅に下落し損失が生じた場合、だれが負担することになるのか。日本の場合、あいまいだ。旧日銀法では、附則として政府による日銀への損失補てん規定が存在していた。だが、98年の日銀法改正によって同規定は撤廃されている。
非伝統的な金融政策である量的緩和策を導入する際、英国では「資産購入ファシリティ」の収益・損益は財務省に帰属することにした。米国では2011年1月から会計方針を変更し、米連邦準備理事会(FRB)の損失をバランスシートに計上して「繰り延べる」ことを可能にしている。日本でも、法的根拠がなくても損失補てんできる可能性はあるが、いずれにせよ、そこには国民の税金が使われることになる。
ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は「金融政策の波及経路が昔より多岐にわたるようになっており、一概にリスク資産を購入すべきではないとは言えない。しかし、損失が生じた場合は、通貨の価値を守るためにも補てんが欠かせない。そこには国民の血税が使われることになるのだから、その方法については『出口』を迎える前に一日も早く決めるべきではないか」との見方を示している。
(伊賀大記 編集:山川薫)
・・・ 平成26年11月6日(木)、東京 ロイター 18時03分配信より
私のコメント: 国際金融にも、その対峙をしている日本外務省の対応も見守りたい。