<下村文科相辞意>新国立競技場…辞意も撤回けじめどこに? |
新国立競技場を巡る問題で下村博文文部科学相は25日、検証委員会から報告書を受け取った前夜に安倍晋三首相に辞意を伝えたと明らかにした。結局、内閣改造を目前に控えた時期の「辞任」は首相の説得で翻意し、内閣改造での「交代」となる。下村氏は給与の自主返納も発表し「けじめ」を強調したが、責任の所在があいまいなままの幕引きとなった印象は免れない。
◇内閣改造前…ささやかれていた“既定路線”
「検証委の報告書とは別の次元で私自身の判断として辞任を申し入れた」。25日の閣議後会見で、下村文科相は辞意が「自主判断」だと再三強調した。
2012年12月に文科相で初入閣して以来、教育委員会制度改革や「道徳」の教科化など安倍首相がこだわる教育改革を実現させてきた下村氏だったが、今年に入って「失点」が相次いだ。2月に支援団体「博友会」を巡る資金問題が週刊誌報道で浮上し、国会で激しく追及された。6月には新国立競技場の総工費の高騰問題がわき上がり、窮地に追い込まれた。それでも首相は責任を問わなかった。政権運営のダメージを回避するためだ。
首相が旧整備計画の白紙撤回を表明したのは7月17日。最重要課題の安全保障関連法は前日に衆院を通過したばかりだった。下村氏を更迭すれば、野党に新たな攻撃材料を与える。関連法の参院審議は難航することが見込まれており、続投させざるを得なかった。
白紙撤回後も自らは職にとどまりながら、担当局長を交代させた下村氏への風当たりは強くなるばかりだった。そんな中で7月24日、下村氏は文科省に検証委を設置すると発表する。総工費が乱高下した経緯を調査するとともに、「私へのヒアリングも含めて検証してほしい」と要望した。
しかし、ある政府関係者は冷ややかにみていた。「みそは検証委の報告期限だ」。期限は9月中旬とされた。設置からわずか1カ月半しかなく、事案の大きさに比べ異例の短さだった。
この狙いを政府関係者はこう解説する。「国会で追及されても『検証委で調べてもらっている』と言えばこの間の野党の矛先も鈍る。でも、期限を『年明け』にしてしまうと、逆に『逃げようとしている』と責められる」。既に内閣改造が9月下旬にも行われるとの見方が広がっており、下村氏の交代説がささやかれていた。徹底した検証よりもこんな政治的な事情を優先したとの見方だ。
25日の下村氏は「辞意」とともに給与6カ月分の自主返納を発表。「前例に照らせば最大でも3カ月分が妥当というのが事務方の判断だったが、私としては政治的に判断した」と、厳しさをアピールした。再発防止策として、大臣官房の機能強化や日本スポーツ振興センター(JSC)との連携強化なども打ち出した。
それでも周囲の見方は懐疑的だ。政府内では検証委の報告書が発表された時点で下村氏と河野一郎JSC理事長が辞意を表明したうえで、下村氏だけを慰留する形で幕引きを図るとのうわさがささやかれていた。ある中堅議員は「内閣改造での交代は既定路線。更迭とみられないだけいいだろう」と突き放した。ある政府関係者は「内閣改造が迫る時期に辞任を申し出ても慰留されると分かっていること。やらせのようなものだ。結局辞任しないのなら、自分の胸に秘めておくべきこと」と話す。【三木陽介、野原大輔、田原和宏】
◇工費高騰 報告受けず現場任せ
「(報告が)上がってこなければ、それぞれのところでうまくやっているだろうと善意に解釈している」
検証委は報告書とともに関係者への聞き取り内容を公表し、そこで下村氏はこう語っていた。新国立競技場の工事費高騰の報告がトップまで上がらない一方、下村氏も現場任せだった実態が浮かび上がる。
2013年10月、毎日新聞は「工事費が約3000億円に膨らむ可能性がある」と報じた。これを受け下村氏は参院予算委員会で「縮小する方向で検討する」と答弁した。下村氏は「この際に3000億円を超えそうだと知った」という。既に同7月、設計会社が3462億円という数字を出し、JSCはコンパクト化した7案を文科省の山中伸一事務次官(当時)らに提示して、協議していた。下村氏は文科省と財務省が同12月、概算工事費1625億円で合意した報告は受けていた。14年8月にJSCは建築物価上昇などを考慮すると1988億円になると文科省に伝えたが、トップはまたも蚊帳の外だった。
下村氏が深刻な状態を把握したのは今年4月10日。旧国立競技場の解体工事を視察した際、JSCの河野理事長から「このままでは20年五輪に間に合わない。予算も1625億円を大幅にオーバーしそう」と切り出された。年初には建設会社が工事費を3088億円と試算していた。
下村氏は聞き取りに「今考えれば本件はJSCの能力を超えていた」と述べた。一方、河野理事長は聞き取りに「解体現場で話した時以外、大臣と膝詰めで話し合った機会はない」と証言した。報告書は文科省の体制を「報告・相談が密に行われる仕組みづくりや風土の醸成が十分ではなかった」と結論づけ、下村氏の責任を認めた。【山本浩資】 ・・・ 平成27年9月25日(金)、毎日新聞 23時2分配信より
私のコメント: 新国立競技場を巡る問題において、下村博文文部科学相が、その深刻な状態を把握したのは今年4月10日とのこと。