財政・金融連携の盲点 巨大な民間余剰資金の覚醒を |
日銀の金融緩和追加に合わせて、政府は週明けに事業規模28兆円超の大型経済対策を決定し、財政と金融の連携を明確にする。日銀が財政資金を提供する「ヘリコプターマネー」政策と同じ効果が期待されるが、盲点がある。日本国内ではカネが有り余り、しかもその余剰マネーは膨らみ続けている。眠る民間資金を活用できない限り、日本の再生はおぼつかない。
グラフは、アベノミクス開始以降の民間の資金余剰の増加ぶりを端的に示している。第2次安倍晋三政権が発足した平成24年12月時点に比べ、今年3月の金融機関の日銀当座預金は228兆円、企業が内部に貯め込んだ利益剰余金は92兆円、合計で320兆円増えた。いわば、アベノミクスの副産物である。
両資金の残高合計では642兆円にも上り、名目国内総生産(GDP)約500兆円余をはるかにしのぐ。増加分の3分の1でも消費や雇用、住宅や設備投資に流れていれば、安倍政権が目標とする名目GDP600兆円はとっくに達成されたはずである。
25年4月に異次元金融緩和に踏み切った日銀は、資金を発行して国債を金融機関から大量に買い上げ、円安と同時に金利低下を促した。円安は株高を伴ってきたが、今年になって円高に反転、株価も不安定になった。金利の方は低下基調が続き、今年2月に日銀が金融機関の日銀での当座預金の新規分についてマイナス金利を導入した途端に、長期金利もマイナス領域に落ち込んだ。
マイナス金利ではカネを預ける側が利子を払う。ならば金融機関は日銀当座預金を減らし、資金を一般向け貸し出しに回すようになるはずだが、実際にはそうなっていない。6月の日銀当座預金は2月に比べて40兆円も増えている。このうちマイナス金利適用分までも3兆4千億円増える始末だ。対照的に、銀行貸し出し増加額は6600億円にとどまる。
銀行はマイナス金利に強く反発し、最大手の三菱東京UFJ銀行が国債入札の特別資格を財務省に返上したのだが、国債を売却した資金を当座預金に留め置く従来のやり方を変えていない。銀行が創出される日銀資金を国内で仲介する意識はマヒしている。そのくせ、債務膨張が国際的に不安視されて問題になっている中国に対し、三菱東京UFJ銀行は大型融資するなど、銀行業界は国内ではなく海外向け融資には熱心だ。
いくら「追加緩和」を強調したところで、日銀の基本路線は変わらない。年間80兆円規模でカネを新たに刷り、金融機関に流し続け、国債を買うので、マイナス金利は今後も続く。手元資金が豊富な企業は、マイナス金利で資金調達できるというのに、事業リスクに脅えて国内では設備投資や雇用の拡大に慎重だ。従来のような日銀の異次元緩和に依存するようでは「無駄カネ」が巨大化するだけだ。
そこで緩和資金を何らかの形で財政出動に振り向け、内需を刺激、拡大させるという選択は確かに理にかなうが、問題はその中身と持続性だ。
政府の大型経済対策は、今秋に予定される第2次補正予算、続いて編成される来年度予算での実行が焦点となる。明確なヘリコプターマネーでない限り、政府は財源の制約と債務増加の恐れから逃れるわけにいかない。国債増発には限度があり、公共投資など財政支出がそのままGDPを押し上げる「真水」部分は6兆円前後にとどまりそうだ。
政府は25年1月に大型補正予算を組んで、25年度の景気を押し上げたが、消費税率が8%に引き上げられた26年度には増税と公共投資などの大幅削減による緊縮財政に転じた。アベノミクス効果は一挙に消滅し、デフレ圧力が再燃し、現在に至る。今回は、安倍首相が来年4月に予定されていた消費税率の10%引き上げを2年半延期したうえでの財政出動だが、前回の消費税増税の後遺症を引きずっているし、20年にもわたる慢性デフレに染まってきた民間資金を単発的な財政出動だけで揺り動かすことができるのか。
欧州は英国の欧州連合(EU)離脱決定に伴う不安、中国は不況下の不動産バブル、そして米国では大統領選の共和党トランプ候補の反グローバリズムと、日本はリスクの大海に浮かんでいる。
緊縮財政を支持してきた経団連は、今や政府に対し思い切った財政出動を求めるのだが、企業は剰余金を雇用改善や技術革新に回し、銀行は国内向け融資拡大に向け総力を挙げるべきだ。民間は政府・日銀の連携策に呼応して、社会的使命の原点に立ち返るべきではないか。(田村秀男) ・・・ 平成28年7月31日(日)、産経新聞 10時20分配信より
私のコメント: 25年4月に異次元金融緩和に踏み切った日銀は、国債を金融機関から大量に買い上げ、円安と同時に金利低下を促した。円安は株高を伴ってきたが、今年になって円高に反転、株価も不安定になった。 英国の欧州連合(EU)離脱決定に伴う不安、米国は大統領選の共和党トランプ候補の反グローバリズムと、日本はリスクの大海に浮かんでいる。 プラザ合意。 大和銀行・・・・。