<アメフット>再三圧迫、追い込まれ 日大選手が実名で証言 |
5/22(火) 21:59配信 毎日新聞 配信より
東京都内の日本記者クラブで22日にあった日本大アメリカンフットボール部3年生の宮川泰介選手(20)の記者会見では関西学院大の選手を負傷させた悪質なタックルに及ぶまでの心理が生々しく語られた。「やらなければ後がないと思った」。内田正人前監督(62)=19日付で辞任=らは選手を定位置から意図的に外し、厳しい言葉で追い込んだ。20歳の若者は謝罪のため、悲壮な覚悟で実名と顔を公表した。真相をあいまいにしてきた大学と指導者の責任は重い。【松本晃、倉沢仁志】
【動画】会見する日大選手
関学大との定期戦(6日、東京都調布市)での悪質なタックルはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で映像が拡散した。プレーが終わっても、日大選手がボールの動きを無視してQB(クオーターバック)を追い回す衝撃の光景は、こんなやり取りから生まれた。「リード(ボールを追う動き)をしないで、QBに突っ込みますよ」。日大選手が試合前に確認すると、井上奨コーチからはこう念を押された。「できませんでしたじゃ、すまされないぞ」
フェアプレーを逸脱した行為のきっかけは試合の3日前だった。「闘志が足りない」とコーチから練習を外された。大学生の日本代表の辞退も申し渡された。頭の丸刈りも命じられ、試合前日に井上コーチから今回の核心が伝えられた。「監督にお前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQBを1プレー目で潰せば出してやると言われた」。「潰す」は乱暴な言葉だが日大に限らず、アメフット界で激しいプレーをするときに使う。だが、井上コーチの一言は心に刺さった。「相手のQBがけがをしたらこっちの得だろ」。日大選手は相手に厳しいタックルを浴びせることではなく「けがをさせる意味と認識した」と振り返る。
「何も考えられない状態だった」と追い込まれた。関学大選手の負傷退場を重く見たのだろう。井上コーチは悪質タックルのあと「キャリアー(ボールを持った選手)に行け」と表現を和らげたが、日大選手は「散々QBを潰せと指示されたので理解できなかった」と歯止めがかからずに反則を繰り返した。
今回明らかになった経緯で内田前監督が選手に直接言ったのは「やらなきゃ意味ないよ」だけだ。日大はコーチや上級生が監督の意向をくんで動く。日大OBによると、内田前監督が日大本部の人事担当常務理事の要職についてからは、その傾向がより強まった。
日大選手は反則行為を後悔し、退場となった直後にベンチに戻って泣いた。その姿に井上コーチは「優しすぎるところがダメなんだ」と突き放した。期待する選手に負荷をかけて成長させるのも日大のやり方だが、正常な判断を失わせるほど追い込むことが人格形成を目的にした大学スポーツの姿だろうか。日大選手は「厳しい環境に身を置き、徐々にアメフットが好きではなくなった」と打ち明けた。
◇日大、訴え取り合わず
実名を公表した記者会見は、大学側の対応が後手だったことへの日大選手と、その父の危機感だった。代理人は父が15日に「このままでは本人が勝手に突っ込んでけがをさせたことになってしまう」と初めて相談に訪れた心境を明らかにした。
10日に関学大が日大に申し入れ書を送った翌日の11日に選手は両親と内田前監督を訪ね、個人として負傷した選手に直接謝罪する意向を伝えた。しかし、内田前監督から「今はやめてほしい」と止められた。指示に従ったことを公表するよう求めても、拒絶された。
その後も日大はアメフット部としては事情を聞かず、関学大に対して、15日付で「指導方針はルールに基づいた『厳しさ』であり、指導者による指導と選手の受け取り方に乖離(かいり)が起きた」と書面で回答。原因は選手の意思だとの見解を示した。内田前監督が関学大の関係者に謝罪し、騒動後、初めて取材に応じたのは試合から約2週間後の19日だった。そこでも「文書を出す」と言及を避けた。
関学大選手から警察に被害届が提出され、大学もアメフット部も守ってくれないことを悟ったうえでの会見だった。記者会見で日大選手は前監督らへの思いを問われ「指示だったと、最初から(表に)出してほしいという気持ちはあった」と、沈黙の後、はっきりとした口調で答えた。
日大は22日に発表した文書で指示そのものは認めたが反則に至った経緯は「誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います」と従来の主張を踏襲した。大学は幹部職員を守るためにあるのか、学生のためにあるのか。教育機関の姿勢が問われる。
◇監督らの刑事責任「可能性ある」
日大選手が犯した悪質な反則タックルを巡って、前監督やコーチは刑事責任を問われることになるのか。
元東京地検公安部検事の落合洋司弁護士は「タックルをした選手の陳述書を見ると、監督やコーチが傷害罪の共犯に問われる可能性は十分ある」と指摘する。落合弁護士は「選手の話だけで事実の認定はできない」としつつも、「選手が監督やコーチに逆らえない強い主従関係があったことは明らかだろう。監督が試合後も選手をとがめていない点からも問題のタックルを肯定していたと受け取れるし、前後の文脈から『潰せ』との指示に相手にけがをさせる趣旨があったと解せる」と話した。
元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は、「相手を潰せ」と指示されたとの証言について「捜査ではそれがどういう趣旨だったのかを明らかにする必要がある。仮にルールを破ってでもけがをさせろという趣旨だったのであれば、傷害罪の教唆に問われる可能性はある」と指摘。ただ「潰すくらいの気持ちでやれという趣旨だったと監督らに弁明されてしまえば、立件は難しくなるのではないか」との見方を示した。【春増翔太】
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私のコメント : 東京都内の日本記者クラブで22日にあった日本大アメリカンフットボール部3年生の宮川泰介選手(20)の記者会見では関西学院大の選手を負傷させた悪質なタックルに及ぶまでの心理が生々しく語られた。「やらなければ後がないと思った」。内田正人前監督(62)=19日付で辞任=らは選手を定位置から意図的に外し、厳しい言葉で追い込んだ。20歳の若者は謝罪のため、悲壮な覚悟で実名と顔を公表した。元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は、「相手を潰せ」と指示されたとの証言について「捜査ではそれがどういう趣旨だったのかを明らかにする必要がある。仮にルールを破ってでもけがをさせろという趣旨だったのであれば、傷害罪の教唆に問われる可能性はある」と指摘。ただ「潰すくらいの気持ちでやれという趣旨だったと監督らに弁明されてしまえば、立件は難しくなるのではないか」との見方を示した。